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2026年8月17日

初めての人向けのCBT-I解説

「不眠に対する認知行動療法」ってなんだろう?

これは、使う人の目線でデジタル版の流れを追ったものです。

プログラムの流れ。睡眠日誌の1週間から始まり、横になる時間を短くする期間とベッドを寝る時だけにする期間を経て、8週目まで進む

初日

眠れないことを相談したとき、「CBT-I」という方法があると知る。薬を使いたくない。ゴールがある。そんな時、候補にあがります。

「試しにそれ、お願いします」

そして、CBT-I全体の大まかな説明を受けたら、いよいよ睡眠日誌からスタート。まずアプリをダウンロードします。

最初の1週間 まだ何も変えません

拍子抜けするかもしれません。最初の1週間、やることは記録だけです。

睡眠日誌の入力画面

いつも通りに寝て、いつも通りに起きる。翌朝、起きてから1時間以内に、前の晩のことをアプリに入れる。布団に入った時刻、電気を消した時刻、寝つくまでにかかった時間、夜中に目が覚めた回数、朝、布団から出た時刻。2分ほどで終わります。

「まだ何も始まらないんですか?」

始まっています。この1週間の記録が、このあと決まることのすべての土台になるからです。

ここで大事なコツがひとつあります。だいたいで構いません。寝つくまで何分かかったかを、時計を見て正確に測る必要はありません。むしろ夜中に時計を見ると、「まだ2時か」「あと4時間しかない」と考えてしまって、かえって眠れなくなります。時計は伏せておいてください。

眠れなかった日も、そのまま書いてください。良い日だけ書くと、あとで出てくる数字がずれます。眠れなかったことは、失敗ではなく情報です。

なお、この記録の期間は、対面で行う場合は2週間とることが多く、アプリで行う場合は1週間のことが多いです。国内で使われているCBT-Iアプリも、7日間の記録から始まります。どちらも考え方は同じです。

1週間後 自分の数字を見る

1週間分の記録がそろうと、いよいよプログラムが始まります。ここで初めて、自分の睡眠が数字になります。

使うのは3つだけです。

名前

意味

床上時間

布団にいた時間

総睡眠時間

そのうち、実際に眠れていた時間

睡眠効率

布団にいた時間のうち、眠れていた割合

たとえばこうなります。

布団にいたのは8時間。でも眠れていたのは5時間20分。
睡眠効率は67%。

「思っていたより、ずっと布団の中で起きてたんだ」

多くの人がここで少し驚きます。眠れない夜は長く感じるので、体感と記録がずれていることも、その逆もあります。

そして、この数字を見たうえで、CBT-Iで一番きつい提案がやってきます。

横になる時間を短くする 布団にいる時間を、いったん削ります

「え、増やすんじゃなくて、減らすんですか?」

はい、減らします。ここが一番驚かれるところです。

考え方はこうです。8時間布団にいて5時間20分しか眠れていないなら、残りの2時間40分は「布団の中で起きている時間」です。その時間が積み重なると、身体は「布団は起きている場所だ」と覚えてしまいます。

そこで、いったん眠れている時間の分だけしか布団にいないようにします。眠りを薄く8時間に伸ばすのではなく、5時間台に凝縮する。凝縮できたら、そこから少しずつ伸ばしていきます。

決めることは2つです。

  1. 起床時刻を固定する。毎日同じ時刻に起きます。休日も変えません。

  2. 就床時刻を、起床時刻から逆算する。起床6時30分で、布団にいてよい時間が5時間20分なら、就床は1時10分になります。

「1時まで起きてるんですか……」

そうです。正直に言うと、最初の1〜2週間がこの取り組みで一番つらい時期です。日中に強い眠気が出ることもあります。

ただし、いくつか約束があります。

  • 布団にいる時間は、5時間を下回らないように設定します。それより短くはしません。

  • 目標の時刻は、アプリが計算した数字をそのまま使うのではなく、医師が確認してから決まります。

  • 眠気が強い日は、運転や、危ないことをともなう作業をしないでください。これが一番大事な注意です。

誰もあまり教えてくれない「待ち時間」の話

ここからは、教科書にあまり書かれていないところです。

横になる時間を短くする間は、「眠くなるまでベッドに入らないでください」と言います。理屈はわかります。でも実際にやってみると、こういう夜になります。

眠い。でもまだ23時。あと2時間、ベッドに入れない。
テレビは明るいし、スマホは目が冴える。本を読む気力もない。
家族はもう寝ている。暗いリビングにひとりで座っている。

CBT-Iは、起きている時間をベッドの外に追い出します。でも、追い出した先で何をするかは、あまり教えてくれません。ここが実は一番つらいところで、途中でやめてしまう理由にもなります。

いくつか、実際に助けになったやり方があります。

場所を決める。寝室ではないところに、待つための定位置を作ります。柔らかい椅子でも、床のクッションでもかまいません。「眠くなったら移動する場所」が決まっていると、毎晩「今日はどうしよう」と考えずに済みます。決めることそのものが、地味に疲れるからです。

明かりを落とす。天井の照明は消して、手元の小さな明かりだけにします。明るい光は身体を起こしてしまいます。

目を閉じて、音を聞く。目を閉じて、ゆっくりした音楽やオーディオブックを流しておく。これは眠るための音ではなく、待つための音です。この違いは大きくて、「これで眠らなきゃ」と思うと眠れなくなりますが、「時間を過ごすために聞いている」と思えると、身体はほどけていきます。

眠らずに休んでいい、と思っておく。待ち時間は、頑張る時間ではありません。眠れなくても、目を閉じて座っているだけで身体は休まります。「眠れていない」ではなく「休んでいる」と考えられると、ずいぶん楽になります。

ひとつだけ注意があります。椅子が快適すぎると、そこで寝てしまうことがあります。そうすると布団に入る時刻がずれてしまうので、うとうとしてきたら布団へ移動してください。

ベッドは寝る時だけにする 眠りと結びつけ直す

横になる時間を短くするのと並行して、もうひとつ始まります。「ベッドと眠りを結びつけ直す」やり方です。

  • 眠くなってから布団に入る(時刻が来たから入る、ではなく)

  • 布団の中でスマホ、テレビ、読書、考えごとをしない

  • 15分ほど経っても眠れなければ、いったん布団から出る

  • 眠くなったら戻る。それでも眠れなければ、また出る

  • 朝は、眠れた時間にかかわらず同じ時刻に起きる

  • 昼寝はしない(するなら15分以内、15時まで)

「15分」は目安で、時計で測らなくて構いません。「なんだか眠れないな」と感じたら出る、くらいでちょうどいいです。

最初は面倒に感じますが、これを続けると、布団に入った瞬間に眠くなる感覚が戻ってきます。

つらくなったら、言ってください

大事なことなので、独立して書きます。

つらいときに自分の判断でやめるのではなく、相談してください。日中の眠気が強い、仕事に支障が出ている、気持ちが落ち込む。そういうときは、医師の判断で就床時刻を前倒しできます。つまり、布団にいる時間を戻せます。

「せっかく決めたのに、崩したら失敗ですよね」

失敗ではありません。調整は最初からこの方法の一部です。

黙って耐えて途中でやめてしまうより、相談して緩めながら最後まで続けるほうが、結果はずっと良くなります。「もう少し寝ていいですよ」と言ってもらえることは、この取り組みのなかで意外と大きなサポートになります。

眠りについての考え方を見直す

進んでくると、記録とは別の話をするようになります。

眠れない夜が続くと、いつのまにか、こういう考えが住みついていることがあります。

「8時間眠らないと、明日がだめになる」
「今夜も眠れなかったらどうしよう」
「眠れないのは自分の身体がおかしいからだ」

これらは、眠りをさらに遠ざけます。「眠らなければ」と力むほど眠れなくなるからです。

ここでやるのは、無理に前向きに考えることではありません。実際のところはどうか、を一緒に確かめていきます。たとえば、日誌を見返すと「4時間しか眠れなかった翌日も、思っていたより普通に過ごせていた」ことに気づいたりします。

数字の目標を立てるわけではありません。「何時間眠れたか」より、「日中どう過ごせているか」に目を向けていきます。

週ごとに、少しずつ戻していく

毎週、前の週の記録から睡眠効率を出して、布団にいてよい時間を調整します。

前の週の睡眠効率

布団にいる時間

90%より高い

15分増やす

85〜90%

そのまま

85%未満

15分減らす

刻み方や境目の数字は、やり方によって少し違います。通っているところの方針に合わせてください。

「15分だけ?」

15分だけです。でも、これが積み重なります。

そして、初めて「増やしていいですよ」と言われる週が来ます。ここが、多くの人にとって一番うれしい瞬間です。削られる一方だった時間が、初めて戻ってくる。数字が良くなったからではなく、自分のやったことが返ってきたという感覚があります。

終わりがある

CBT-Iは、だいたい8週間ほどのプログラムです。ここが薬と大きく違うところで、終わりが設計されています。

正確には、カレンダーで終わるのではなく、「十分な睡眠時間で睡眠効率が安定したところ」で終わります。人によって6週間で届くこともあれば、もう少しかかることもあります。

最後のほうでは、また眠れなくなったときの話をします。この先、また眠れない夜は必ず来ます。出張、体調不良、心配ごと。そのときにどうするか、を先に決めておきます。

  • 数日眠れなくても、あわてて布団にいる時間を増やさない

  • 起床時刻をまず元に戻す

  • それでも1〜2週間続くようなら、短い期間だけ横になる時間を短くするのをやり直す

「また眠れなくなったときに、自分で戻せる」という状態がゴールです。眠れない夜が二度と来ないことがゴールではありません。

3か月後くらいに、もう一度確認の機会があります。

よくある質問

Q. いま睡眠薬を飲んでいますが、できますか?
できることが多いです。ただし、薬の減らし方は自己判断でやらないでください。CBT-Iを進めながら、主治医と相談して減らしていく形になります。急にやめると、かえって眠れなくなります。

Q. 薬とCBT-Iは、どちらが先なのですか?
欧州睡眠学会(Riemann ら, J Sleep Res, 2017)と米国内科学会(Qaseem ら, Ann Intern Med, 2016)のガイドラインは、いずれも成人の不眠に対してCBT-Iを最初の選択として推奨し、薬はそれで足りない場合などに位置づけています。ただし、いま薬を飲んでいる人が自己判断で切り替えるものではありません。上の質問のとおり、主治医と相談しながら進めます。

Q. 何時間眠れるようになりますか?
「◯時間眠れるようになる」という約束はできません。目指すのは時間の数字ではなく、布団に入ったら眠れて、日中それなりに過ごせる状態です。結果として睡眠時間が今より短く落ち着く人もいます。それでも調子が良ければ、それでいいのです。

Q. 変化を感じるまでどれくらいかかりますか?
最初の1〜2週間はむしろつらくなることが多く、変化を感じ始めるのは3〜4週目あたりからという人が多いです。一番きつい時期が最初に来ることは、先に知っておいたほうがいいと思います。

Q. 途中でやめたくなったら?
やめる前に相談してください。前倒しや、進み方をゆるめるなど、続けられる形に変えられることがあります。それでも合わなければ、やめるという選択もあります。

Q. 誰でもできますか?
いいえ。次のような場合は、慎重に判断するか、先に別の対応が必要です。

  • 双極性障害がある(睡眠を削ると症状が動くことがあります)

  • てんかんがある

  • 睡眠時無呼吸が疑われる、または対応をしていない

  • 運転する仕事、危険をともなう作業をしている

  • 妊娠中である

  • すでに日中の眠気が強く、生活に支障が出ている

いびきや呼吸が止まることを指摘されたことがある、夕方に脚がむずむずする、といった場合は、そちらの検査が先になることがあります。

安全のために

  • 眠気が強い日は、運転や危険をともなう作業をしないでください

  • 目標の時刻は、必ず医師の確認を経て決めます

  • つらいときは、自分で崩す前に相談してください

  • 気分の落ち込みが強くなったときは、すぐに伝えてください

おわりに

CBT-Iは、正直に言えば楽な取り組みではありません。最初の1週間は記録だけで拍子抜けして、そのあとの2週間が一番つらい。

でも、薬に頼らずに眠りを取り戻す道があって、終わりがあって、終わったあとも自分で立て直せる。そこに価値を感じる人には、試す意味のある方法だと思います。

そして、いちばんつらい「眠いのにベッドに入れない夜」の過ごし方は、まだ十分に設計されていない部分です。ここをどう楽にするかは、これから良くしていけるところだと考えています。


この文章は、CBT-Iの一般的な流れを使う人の目線で説明したものです。実際の進め方や数字は、通っている医療機関の方針によって変わります。ご自身のことについては、主治医の指示に従ってください。